長崎市に拠点を構える株式会社アスタでは、交通誘導警備・雑踏警備・駐車場警備を通じて長崎県内の安全を支えています。工事現場における警備業務では、建設作業員だけでなく警備員自身も常に危険と隣り合わせで働いています。厚生労働省の統計によると、令和5年の建設業における死亡者数は223人と全業種中で最多となっており、警備員にも高度な安全意識が求められています。
警備員の制服 
危険予知訓練(KYT:Kiken Yochi Training)は、工事現場で働くすべての人が身につけるべき重要な安全手法です。事故が起きてからの事後対策ではなく、危険を事前に察知し未然に防ぐ予防的なアプローチが現代の安全管理の基本となっています。本記事では、警備員が工事現場で実践すべきKYTの具体的な方法と安全意識の向上について詳しく解説します。
 

 

KYTの基礎知識と目的

危険予知訓練(KYT)は、作業や職場にひそむ危険性や有害性等の危険要因を発見し解決する能力を高める手法として、昭和53年(1978年)に全国展開されました。それ以降、労働災害の発生件数は着実に減少を続けています。
 

KYTとは何か

KYTは、「危険(Kiken)のK」「予知(Yochi)のY」「訓練(Training)のT」の頭文字を取った略称です。厚生労働省職場のあんぜんサイトでは、「作業や職場にひそむ危険性や有害性等の危険要因を発見し解決する能力を高める手法」と定義されています。
 
この訓練の目的は、事故が起きてからその原因を取り除く事後活動ではなく、事故が起きる前に危険箇所を皆で認識する予防活動です。工事現場で働く警備員にとって、KYTは自分自身の安全を守るだけでなく、現場全体の安全レベルを向上させる重要なツールとなります。
 

労働災害の発生原因
割合
具体例
不安全な行動(人的要因)
約80%
安全確認の怠り、手順無視、慣れによる油断
不安全な状態(物的要因)
約20%
設備の不備、安全装置の故障、環境の悪化

「参照:厚生労働省 職場のあんぜんサイト」
 

建設現場の事故統計と現状

厚生労働省の統計によると、令和5年の労働災害による死亡者数は755人で過去最少となりましたが、建設業は223人と全業種中で最多でした。また、休業4日以上の死傷者数は3年連続で増加しており、建設現場における安全対策の重要性は高まっています。
 
建設業の事故の型別では、「墜落・転落」が最も多く、次いで「はさまれ・巻き込まれ」「転倒」の順となっています。警備員も建設現場で働く以上、これらの危険と常に隣り合わせであることを認識し、適切な安全対策を講じる必要があります。
 

事故の型
建設業での件数
主な発生状況
墜落・転落
4,594件
足場、屋根、はしごからの転落
転倒
1,734件
不整地、段差、濡れた路面での転倒
はさまれ・巻き込まれ
1,706件
重機、機械設備への挟まれ

「参照:サステナビリティハブ 建設現場での安全活動まとめ」
 

KYT4ラウンド法の実践

中央労働災害防止協会が定めているKYTの標準的な活動方法が「KYT4ラウンド法」です。これは旧国鉄が実践していた「指差し呼称」と危険予知活動を組み合わせた効果的な手法です。
 

4つのラウンドの進め方

KYT4ラウンド法は、以下の4つのステップで構成されています。各ラウンドには明確な目的があり、段階的に危険予知能力を高めていきます。
 
▼第1ラウンド:現状把握(どんな危険がひそんでいるか)
イラストシートや実際の作業現場を見ながら、潜んでいる危険要因を全員で洗い出します。「もし〜したら、〜になるかもしれない」という形で具体的な危険を想定します。
 
▼第2ラウンド:本質追求(これが危険のポイントだ)
第1ラウンドで出された危険要因の中から、最も重要で緊急度の高いものを絞り込みます。「これが最も危険だ」と参加者全員が納得できるポイントを特定します。
 
▼第3ラウンド:対策樹立(あなたならどうする)
第2ラウンドで特定された危険ポイントに対する具体的な対策を検討します。実際に作業者が実行可能な現実的な対策を立案します。
 
第4ラウンド:目標設定(私たちはこうする)
決定した対策を行動目標として明文化し、参加者全員で指差し呼称を行います。「〜に注意して、〜を確実に実行しよう、ヨシ!」
 

実践のコツ
KYT4ラウンド法を効果的に実施するためには、参加者全員が積極的に発言することが重要です。小さな意見でも否定せず、「そうですね」「なるほど」といった肯定的な反応を示しましょう。経験年数や職位に関係なく、誰もが気づいた危険を自由に発言できる雰囲気作りが成功の鍵となります。

 

指差し呼称の重要性

指差し呼称は、KYTの最終段階で行う重要な行動です。単に声に出すだけでなく、対象を指で指しながら声に出すことで、視覚・聴覚・運動感覚を同時に使い、確認効果を高めます。
 
▼警備員の業務における指差し呼称の例

「車両接近、安全確認、ヨシ!」
「後方歩行者なし、誘導開始、ヨシ!」
「工事車両停止位置、安全、ヨシ!」
「信号変更時刻、10分前、ヨシ!」

この動作により、うっかりミスやぼんやりミスを防ぎ、確実な安全確認を行うことができます。
 

 

警備員特有の危険要因


工事現場で働く警備員は、建設作業者とは異なる特有の危険に晒されています。交通誘導という性質上、常に車両と歩行者の間に位置し、動的な環境での安全確保が求められます。
 

交通誘導時の危険ポイント

交通誘導警備員が直面する主な危険要因は、車両との接触事故です。特に以下の状況では注意が必要です。
 
▼車両の死角による危険
大型車両には運転席から見えない死角が多く存在します。警備員がこの死角に入ってしまうと、運転手は警備員の存在に気づかず、接触事故のリスクが高まります。
 
▼急な進路変更や停止
工事車両や一般車両の予期しない動きに対応するため、警備員は常に周囲の状況を把握し、瞬時に安全な位置に移動できる準備をしておく必要があります。
 
▼夜間・悪天候時の視認性低下
長崎県は雨が多い地域特性があり、視界不良時の安全確保は特に重要です。反射ベストやライトの着用はもちろん、より積極的な声かけと大きな動作での誘導が必要になります。
 

危険状況
発生要因
対策
車両との接触
死角への立ち入り、注意力散漫
安全な位置の確保、アイコンタクト
転倒・躓き
不整地、資材の散乱
足元確認、適切な靴の着用
飛来・落下物
上部作業からの落下物
ヘルメット着用、上部確認

「参照:中央労働災害防止協会 危険予知訓練」
 

現場環境による危険要因

工事現場の環境は日々変化し、新たな危険要因が生まれる可能性があります。警備員は建設作業の進捗に合わせて、常に危険箇所を把握し直す必要があります。
 
▼地面の状態変化
掘削作業、資材搬入、天候による地面状態の変化は、転倒や躓きのリスクを高めます。特に長崎の坂道が多い地形では、傾斜面での作業も多く、より慎重な足元確認が必要です。
 
▼騒音による危険
建設機械の騒音により、車両の接近音や危険を知らせる声が聞こえにくくなることがあります。聴覚だけでなく視覚による確認を徹底し、定期的な周囲確認を心がけましょう。
 
▼粉塵・有害物質
解体工事や塗装作業では、粉塵や化学物質が飛散する可能性があります。適切なマスクの着用と、風向きを考慮した立ち位置の選択が重要です。
 

長崎県の地域特性と対策

長崎県は独特の地形と気候を持つ地域であり、これらの特性を理解した安全対策が必要です。坂道が多い地形と海に囲まれた立地による気象条件を考慮したKYTの実践が求められます。
 

地形的特徴への対応

長崎市は「坂の街」として知られ、平地が少なく傾斜地での工事が多いのが特徴です。このような地形での警備業務には特別な注意が必要です。
 
▼急傾斜地での安全確保
坂道での車両誘導では、車両の制動距離が平地と異なります。特に大型車両や重機は、下り坂でのブレーキ効きが悪くなる可能性があるため、より長い安全距離を確保する必要があります。
 
▼擁壁・法面の安全確認
長崎の地形特性上、擁壁や法面に隣接した工事現場が多くあります。雨水による地盤の緩みや、工事振動による影響を常に意識し、上部からの落石や土砂崩れの可能性を考慮した立ち位置を選択しましょう。
 
▼狭隘道路での車両誘導
住宅密集地の狭い道路での工事では、対向車との離合や歩行者の安全確保がより困難になります。見通しの悪い交差点やカーブでは、特に慎重な誘導が必要です。
 

気候条件と安全対策

長崎県は年間降水量が多く、台風の通り道でもあります。これらの気象条件を考慮したKYTの実践が重要です。
 
▼梅雨・台風シーズンの対策
長時間の降雨により、工事現場の排水状況が悪化し、水たまりや泥濘が発生します。滑りやすい路面での転倒防止のため、適切な安全靴の選択と、歩行時の注意深さが求められます。
 
▼強風時の安全確保
台風や季節風の影響で、看板や仮囲いが飛散する危険があります。風向きと強さを常に意識し、飛来物から身を守る避難場所を事前に確認しておきましょう。
 
▼濃霧による視界不良
海に囲まれた立地により、濃霧が発生しやすい条件があります。視界不良時は車両の前照灯点灯を促し、より頻繁な安全確認と大きな声での誘導を実施します。
 

気象条件
主要リスク
対策
強雨
視界不良、路面冠水、転倒
レインコート着用、排水確認
強風
飛来物、看板倒壊
避難場所確認、固定物点検
濃霧
視界不良、車両事故
ライト点灯促進、声による誘導

「参照:厚生労働省 令和5年労働災害発生状況」
 

日常業務での実践方法

KYTは一度実施すれば効果が持続するものではありません。日々の業務の中で継続的に実践し、安全意識を維持・向上させることが重要です。
 

朝礼・始業時のKYT

毎日の始業時に行うKYTは、その日の作業の安全を確保する重要な活動です。短時間でも効果的に実施できる方法を身につけましょう。
 
▼1分間KYT
時間が限られている場合でも、以下のポイントで簡潔なKYTを実施できます。

▼今日の天候・気温の確認
工事進捗による現場状況の変化
新たな危険要因の有無
重点注意事項の確認
 
▼チーム内での情報共有
前日の作業で気づいた危険箇所や、ヒヤリハット事例を共有します。個人の経験を チーム全体の安全知識として蓄積することで、組織全体の安全レベルが向上します。
 
▼役割分担の明確化
その日の警備配置と責任範囲を明確にし、連携のための連絡方法を確認します。緊急時の対応手順も併せて確認しましょう。
 

継続のポイント
毎日のKYTを形式的なものにしないためには、実際に現場で体験した事例を積極的に取り入れることが大切です。「昨日、こんなヒヤリとしたことがありました」という生の声は、理論的な説明よりもはるかに強い印象を与え、安全意識の向上につながります。

 

継続的な安全意識向上

KYTの効果を最大化するためには、継続的な改善と学習が必要です。以下の取り組みにより、安全意識の向上を図りましょう。
 
▼ヒヤリハット報告の積極的な活用
小さな事故や危険な体験も貴重な学習材料です。「事故になる前に気づいて良かった」という前向きな捉え方で、報告しやすい雰囲気を作りましょう。
 
▼他現場の事例学習
株式会社アスタが担当する他の現場での事例や、業界全体の事故事例を学習することで、より幅広い危険予知能力を身につけることができます。
 
▼定期的な振り返りと改善
月末や工事区切りごとに、実施したKYTの効果を振り返り、より効果的な方法を検討します。形式化を防ぎ、常に実効性のある活動を維持することが重要です。
 
▼技能向上と資格取得
交通誘導警備業務検定などの資格取得により、より専門的な安全知識を身につけることができます。資格取得は個人のスキルアップだけでなく、現場全体の安全レベル向上にも寄与します。
 

安全文化の構築に向けて

危険予知訓練(KYT)は、単なる安全手法ではなく、現場で働くすべての人が共有すべき安全文化の基盤です。工事現場で働く警備員一人ひとりが高い安全意識を持ち、KYTを日常的に実践することで、事故のない安全な現場環境を構築することができます。
 
長崎県の地域特性を理解し、気候や地形に配慮した安全対策を講じることで、地域に根ざした信頼される警備サービスを提供することが可能になります。株式会社アスタでは、このような安全意識の高い警備員の育成を通じて、長崎県内の建設現場の安全確保に貢献しています。
 
KYTの実践は、自分自身の安全を守るだけでなく、同僚の安全、そして現場を利用するすべての人の安全につながる重要な活動です。継続的な学習と実践により、プロフェッショナルな警備員として成長し、安全で安心な社会の実現に貢献していきましょう。毎日の小さな気づきと確認の積み重ねが、大きな事故を防ぐ力となることを忘れずに、常に向上心を持って安全業務に取り組むことが重要です。
 


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